ことばは、長い時間をかけて人々の口から自然に育つものです。それでも、世界じゅうの人が話せる共通の言葉を夢見た人、あらゆる概念を記号で整理しようとした哲学者、物語の世界のために一から言語を作った作家がいました。反対に、仲間うちだけに通じる隠語や、女性たちだけが受け継いだ文字もあります。解読されていない古代の文字や暗号は「未解決」の分類に、ヴォイニッチ手稿やエノク語は「オカルト」の分類に載せています。
言語の話者数などは資料によって大きく異なるため、あまり記していません。
64語
世界をつなごうとした言語
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カトリックの司祭シュライヤーが、夢のお告げを受けて作ったとされる国際語。一時は世界に百万人の学習者がいたといわれるが、複雑な文法と内部の対立で急速に衰えた。
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ザメンホフが「希望する者」という筆名で発表した国際語。規則的な文法と少ない語根で学びやすく、いまも世界に話者がいる、もっとも成功した人工言語。
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ロシア人、ポーランド人、ドイツ人、ユダヤ人が互いの言葉を理解できずに憎みあう町で育った眼科医。民族を超える中立の言葉を作ろうとした。
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大本の出口王仁三郎は、世界の人類を一つにする言葉としてエスペラントを熱心に広め、教団の中で学ばせた。
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宮沢賢治はエスペラントを学び、いくつかの詩をエスペラントに訳そうとした。理想郷「イーハトーブ」の響きにもその影響を見る人がいる。
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エスペラントを改良しようとして生まれた国際語。「子孫」を意味する名のとおりエスペラントから分かれ、運動を二つに割る原因になった。
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数学者ペアノが作った、語形変化をなくしたラテン語。数学の論文をこれで書いた。自然数の公理で知られるペアノの、もうひとつの顔。
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言語学者イェスペルセンが作った国際語。言語学者が作っただけに自然な文法をめざしたが、広まらなかった。
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オグデンが考えた、850語だけで何でも言えるようにした簡略な英語。チャーチルが支持し、オーウェルの「ニュースピーク」の着想のもとになったともいわれる。
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ドレミファソラシの七つの音だけで単語を作る言語。歌っても、楽器で弾いても、色や旗で示しても話せる。名前は、この言語で「ソルレソル」と発音される音の並びから来ている。
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ヨーロッパの言語に共通する語彙を集めて作った国際語。学ばなくてもロマンス語を知る人ならある程度読める、という点を目指した。
世界を記号で整理する夢
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世界のあらゆる事物を分類し、その分類の位置がそのまま単語になる「哲学言語」を提案した聖職者。王立協会の創設者の一人。ボルヘスがエッセイで取り上げたことで知られる。
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ライプニッツが夢見た、思考そのものを記号で書き表し、議論を計算で決着させる言語。「計算しよう」と言えば争いがなくなるはずだった。
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論理学にもとづいて作られ、あいまいさのない文が書けるとされる言語。前身のログランは、言語が思考を形づくるかを実験するために作られた。
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できるかぎり少ない言葉で、できるかぎり正確に意味を伝えることを目指した言語。複雑すぎて、作ったキハーダ本人も流暢には話せないといわれる。
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120語ほどしかない小さな言語。「よい」「悪い」のように単純な言葉を組み合わせて世界を言い表す。作者のソニア・ラングは、心を簡素にするための言語だとした。
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漢字に着想を得て作られた、意味を表す図形の文字。国際語としては広まらなかったが、話すことが難しい人の意思伝達の手段として使われるようになった。
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SF作家スゼット・ヘイデン・エルジンが、女性の感じ方を表すために作った言語。話し手の気持ちや証拠の確かさを文ごとに示す言葉がある。
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「宇宙の言語」と名づけられた、一つひとつの音に基本の意味を持たせた言語。作者のワイルガートは、感情や概念を音の組み立てで表すことを目指した。
物語のために作られた言語
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言語学者トールキンは、物語より先に言葉を作った。エルフの言語が話される世界と歴史が必要になり、そこから『指輪物語』が生まれたと本人は語った。
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フィンランド語に着想を得た、エルフの古い言語。ラテン語のように儀式や歌に使われる言葉とされる。
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ウェールズ語の響きをもとにした、エルフの日常の言語。独自のテングワール文字で書かれる。
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トールキンが、ひとりで言語を作る楽しみについて語った講演。人工言語作りを「秘密の悪徳」と呼び、その喜びを告白した。
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映画『スタートレック』の戦闘的な異星人の言語。言語学者マーク・オークランドが、人間の言語にはまれな語順と荒々しい音で作った。辞書が出版され、シェイクスピアの翻訳もある。
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ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』の騎馬民族の言語。デヴィッド・J・ピーターソンが、原作の数語から数千語の言語に育てた。
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オーウェルの小説『一九八四年』で、全体主義の国家が作る言語。語彙を減らして反抗的な考えを言葉にできなくする。「二重思考」などの言葉は現実の政治を語るのに使われている。
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バージェスの小説『時計じかけのオレンジ』の不良少年たちが話す俗語。ロシア語を英語風に崩して作られ、読者は読み進めるうちに意味を覚えていく。
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トマス・モアの『ユートピア』の後の版に載せられた、理想の島の言語の文字と詩。人工言語の最も古い例のひとつ。
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修道女ヒルデガルト・フォン・ビンゲンが記した「知られざる言語」。千語あまりの単語と独自の文字からなり、神から授かったものともいわれる。
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ディレイニーのSF小説。敵の言語を学ぶうちに、その言語の考え方に心を乗っ取られていく詩人の物語。言語が思考を作るという考えを物語にした。
仲間うちだけの言葉
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商人や職人が、客にわからないように使う数や品物の隠し言葉。寿司屋の「あがり」(お茶)や「おあいそ」(勘定)は、客にまで広まってしまった符丁。
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ジャズ(ズージャ)の演奏家たちが使った、言葉の音をひっくり返す業界語。六本木を「ギロッポン」、飯を「シーメー」という。のちに芸能界に広まった。
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イギリスの旅芸人や船乗り、そして同性愛が罪だった時代のゲイの人々が使った隠語。イタリア語やロマ語、逆さ言葉が混ざる。ラジオ番組で使われて一時広く知られた。
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ある言葉を、それと韻を踏む言葉で言い換え、さらに韻の部分を省く俗語。「階段」を「リンゴと梨」の「リンゴ」と呼ぶ。部外者にはまったく意味が取れない。
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単語の最初の子音を後ろに回して「エイ」をつける英語の言葉遊び。子どもたちが大人に聞かれたくない話をするのに使う。
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宮中に仕える女性たちが使った言葉。「お」をつけたり語尾を「もじ」にしたりして、「おでん」「おなか」「しゃもじ」など、いまの日本語にもたくさん残っている。
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携帯電話のメールで、ひらがなをばらばらの記号や別の文字に分解して書く若い女性たちの書き方。大人には読めないことが楽しさの一部だった。
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日本の携帯電話のために作られた、12ドット四方の小さな絵の文字。のちに世界共通の文字コードに取り入れられ、「emoji」のまま世界の言葉になった。最初の176個はニューヨーク近代美術館に収蔵されている。
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深い谷に隔てられたラ・ゴメラ島で、谷越しに会話するために使われてきた口笛の言語。スペイン語を口笛の高さに置き換えて話す。島の学校で教えられている。
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言葉の音の高低をそのまま太鼓でたたいて、遠くの村に伝える方法。言葉の抑揚をなぞるので、決まった言い回しを添えて意味の混乱を防いだ。
忘れられた文字と作られた文字
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湖南省の村の女性たちだけが使い、母から娘へ伝えた文字。細く傾いた字で、嫁いでいく娘に宛てた手紙や、苦しみを分かち合う歌が書かれた。最後の使い手は2004年に亡くなった。
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西夏の王が作らせた、漢字に似ていながら一字も漢字と同じものがない文字。六千字ほどあり、20世紀になって解読が進んだ。日本の研究者の貢献が大きい。
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ナシ族の祭司トンパが経典を書くのに使った絵文字。「生きている象形文字」と呼ばれ、動物や人の姿がそのまま字になっている。
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フビライ・ハンがチベットの僧パスパに作らせた、帝国のあらゆる言葉を書き表すための文字。帝国の滅亡とともにほとんど使われなくなった。
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朝鮮の世宗が学者たちと作った、発音の器官の形をもとに設計された文字。いまのハングル。作られた年と作り手と設計の理由がはっきりしている、珍しい文字。
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モルモン教の指導者ブリガム・ヤングが、英語の綴りを改めるために作らせた文字。教科書も印刷されたが広まらず、ユタ州にわずかな記録が残る。
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劇作家バーナード・ショーが遺言で、新しい英語の文字を作るために遺産を残したことから生まれた文字。この文字で書かれた彼の戯曲が出版された。
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ゲルマンの人々が石や木に刻んだ直線的な文字。のちに魔術や占いと結びつけられ、トールキンの小説の地図や、ナチスの記章にまで使われた。
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一本の線に短い刻み目を何本入れるかで文字を表す。石の角を線にして刻まれた。木の名前と結びつけられた文字でもある。
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粘土板に葦の筆を押しつけて書かれた、もっとも古い文字のひとつ。三千年にわたって使われ、19世紀に解読された。借金の証文や、ビールの配給の記録まで残る。
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同じ内容がヒエログリフ、民衆文字、ギリシア文字の三つで刻まれた石碑。ナポレオンの遠征中に見つかり、シャンポリオンがヒエログリフを解読する手がかりになった。
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ヒエログリフを解読した言語学者。解読に成功した瞬間、兄の部屋に駆け込み「分かった」と叫んで気を失ったと伝えられる。
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クレタ島の線文字Bを、古いギリシア語だと突き止めて解読した建築家。本業の余暇に取り組んだ謎を解き、34歳で交通事故で亡くなった。
点と線と光の文字
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ナポレオン軍の将校バルビエが、夜の戦場で明かりをつけずに命令を読めるように考えた、紙に打った凸点の文字。これが点字の源になった。
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幼いころ父の工房の道具で目を傷つけ、視力を失った少年。十代で夜間文字を改良し、六つの点で文字を表す点字を作った。
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短い音と長い音の組み合わせで文字を送る符号。電信とともに世界に広まった。「SOS」はトン・トン・トン、ツー・ツー・ツー、トン・トン・トン。
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両手に持った旗の角度で文字を表し、遠くの船や陣地と通信する方法。いまも海の上や学校の行事で使われる。
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丘の上に立てた塔の腕木の形で文字を表し、望遠鏡で次の塔へ中継する通信網。パリからリールまで、数分で知らせが届いた。
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話す速さに追いつくため、音を短い線や曲線の記号で書きとる方法。日本では明治の演説や講談の記録に使われ、話し言葉のまま書く「言文一致」を後押しした。
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手の形で五十音やアルファベットを表す方法。手話では表しにくい名前などを伝えるのに使う。国によって形がまったく異なる。
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宇宙の知的生命に向けて電波望遠鏡から送られた、1679個の0と1の信号。並べ直すと数字、DNA、人の姿、太陽系の絵になる。届くのは2万5千年後。
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宇宙を飛ぶ探査機に取り付けられた、裸の男女の絵と太陽系の位置を刻んだ板。宇宙人に読ませるための絵文字で、裸の絵は地上で論争を呼んだ。
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